
濱尾ノリタカ 真摯に、ひたむきに向き合う俳優道
20 Oct 2025
俳優・濱尾ノリタカとは何者なのか。凛々しい目元と鍛え上げられた肉体、まっすぐな信念と礼儀正しさ。令和には珍しいくらいの硬派な男。その唯一無二の魅力はどこから来るのか。彼の口からは「ひたむき」という言葉が重ねて出てくる。ひたむきにたくさんの物事を吸収して、それを自分のなかで咀嚼し、培われてきた「知性」という武器は、理性だけでなく感性をも昇華するものなのだと彼から知る。それは演技にも活かされ、出演する作品ごとにインパクトを残す。驕らず、真摯に、人一倍思案する彼の生き様を見届けたい。
─ 撮影はいかがでしたか?
正直に言うと、僕はメイクについて詳しくないですし、基本的にしなくていいかなと思っているんです。でも僕みたいな顔のタイプでメイクをしてみたいという人もいると思うから、そういう方たちに向けて提案できたのは嬉しかったです。普段はドラマの撮影でもなるべく薄くしていて、基本的にはニキビとかヒゲを「隠すメイク」なんです。でも今日のメイクは、隠すだけじゃなくて、プラスアルファで違った良さを引き出すメイクだったので、面白かったです。それに、2ルックでここまで振り幅があるのはさすがプロだなと。髪を下ろしたのも久しぶりなんですが、意外と今の長さでも似合うんだなって、自分のレパートリーが増えて嬉しかったです。
─ 何もしないかっこよさもあると思いますが、まさに今日は「男らしさ」と「美しさ」がどう共存するのか、というテーマでした。
結局、男性らしさって精神的な部分の話で、その精神性を表現するためにメイクが必要ならしてもいいと思います。昔は社交の場でメイクをしないと失礼だと押し付けられていましたが、今はご自身のことをよく理解して、自分のためにメイクをされている方が多いと思います。女性にとってのメイクがそういう流れになっているのと同じようにメンズメイクもなったらいいですよね。なので、そういう提案をしているのは素晴らしいなと思います。
─ 美容のこだわりはありますか?
泡立てて洗顔するようになりました。元々ゴシゴシ洗いが癖だったんですけど、ネットで泡立てて洗うのをこの1年ほどで始めてみて、意外と本当に違うんだなと感じています。あとは水泳ですね。最近は休みの日にはできるだけ泳ぐようにしていて、そのおかげか肌は確実に変わりました。陸上の運動後と水泳後の汗は全然違うんです。個人的感想ですが、水泳後の汗は本当に「水」が出ている感じで、肌のコンディションの違いが明確にあるなと感じています。
─ どんな感じで泳いでいるんですか?
元々専門はバタフライで短距離だったんですけど、今は速く泳ごうと思わなくて、クロールと平泳ぎでダラダラ1キロとか泳いでいます。ゆっくり泳ぎながら、自分のどこに力が入っているか抜けているか、ボディバランスや力の入り方をチェックするんです。競技ではなくウェルネスやマインドフルネスとして捉えるようになってから、より好きになりました。

─ 水泳が役者業に役立ったなと思うことはありますか?
この前、椎名林檎さんのMVに出させていただいて、そのなかで泳ぐシーンがありました。僕は水泳のドラマや映画に出るのが夢だったので、今回初めてできて嬉しかったです。
─ マインド的に活かされているところはありますか?
僕が通っていたスイミングクラブはコーチが厳密に教えるタイプではなく、「自分で考えろ」というスタイルでした。だから、ここは誰かの助言を取り入れようとか、これは自分の考えをベースに進めようとか、バランスを取りながらやっていました。その経験は役者業にも、生き方としても、すごく役立っていると思います。
─ 俳優を始めたきっかけは?
「特別になりたい」という気持ちがあったと思います。以前は色々理由をつけて説明していたんですが、今やっと素直にそう思えるようになった、という感じです。それはすごくシンプルな意味で、自分をただの記号じゃなくて一人の「自分」として見られたいということなんです。特別である方法として僕には役者しか思いつかなかった。やってみたらすごくのめり込んでいて、チープに言えば運命みたいなものだと思っています。
─ ドラマ『明日はもっと、いい日になる』の現場はいかがでしたか?
撮影を通して、児童相談所で働いている感覚が出てきて、気づいたらみんながなじんでいて、仕事に真摯に向き合うスタンスが自然とできてきています。そして何より柳葉敏郎さんとご一緒できたことが、自分にとってすごく大きかったです。子供と接するシーンで、愛情が自然に滲み出ていて、すごく説得力あるんです。そういう素晴らしい役者さんとご一緒できて勉強になっているとつくづく感じています。題材が題材なので、スタッフさんも役者の皆様もみんなが真剣に取り組んでいましたし、ひたむきさがありました。僕はひたむきという言葉が好きなんですが、先ほど言っていた「男らしさ」「美しさ」も、ひたむきであることが大事だと思っていて、この作品もひたむきさをすごく感じられるものになっているなと思います。
─2025年12月5日(金)公開の映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』について、決まった時はいかがでしたか?
原作の『WIND BREAKER』は僕も元々知っていて、「あ、またすごい人気のものが出てきたな」と思っていたところだったので、出演のオファーには本当に驚きました。実は今回、萩原健太郎監督がお声がけくださったんです。以前別の作品のオーディションで、「今回合う役はないんだけど、一緒にやってみたいからちょっとだけ出てもらえないか」と言っていただいて、「出させてください!」とお答えしました。その撮影のあと、「必ずまたすぐやろう」と言ってくださったんですけど、今回それが本当に叶いまして。主演の水上恒司くんが演じる桜遥と、僕が演じる十亀条の関係性が、物語の中心のひとつ。そんな重要な役を任せていただけたということは、やっぱり特別なことだなと思いますし、「十亀条に合うのは絶対に濱尾だ」と監督が言って通してくれたことは、役者としても人としても本当に嬉しかったです。
─ 十亀とご自身に共通点はありましたか?
結構ありました。(スマホのメモを見ながら)いろんなことを書き留めていたんですけど、多すぎて逆にわからないくらい(笑)。“弱いところ”ですね。あとは、“手放せないところ”。僕も、寂しがり屋なんです。けど人の輪のなかにいるのは苦手。そこは十亀と共通しているなと思います。誰にでもある部分かもしれないけど、根幹にあるものとしてすごく似ていたので、十亀と一緒に手を繋いでやれた気がします。

─ アクションシーンはいかがでしたか?
下駄でのアクションがすごく大変でした。不安定だし、滑るし、かつ重心低めの姿勢は下駄だと支えきれないんですよね。だからずっとレスリング歩きみたいな、すり足で動いていました。ジムでレスリングのトレーニングを取り入れたり、体をつくり直すようなこともやっていました。オファーが決まってから撮影が終わるまではTPOがOKのときは常に下駄だったし、2時間くらい下駄で散歩したりして、最終的にはめちゃくちゃなじみました。
─ 現場の雰囲気や印象に残っていることは?
同世代の役者が多かったのですが、実写化作品によく出ている人もいれば、キラキラ系やBL系をやっている人もいたし、舞台がメインの人や単館系映画を主戦場にしている人もいたり、タイプの違う役者が多かった。同世代でもバラバラだったからこそ、変な尖り方をしている人がいなかったのかもしれない。もちろんライバル意識はあるし、切磋琢磨もしているけど、みんなそれぞれのやり方で役に向き合っていた感じが面白かったです。
─ 見どころを教えてください。
原作がある作品だからこそ、僕らはリスペクトを持って向き合いました。役についてずっと考えていましたし、役者がやるからこそ描ける部分って絶対にあるし、妥協は一切しなかった。今回は実写化という枠にとらわれず、きちんと映画としてひとつの作品になるように全力を注いだので、安心して届けられるという気持ちがあります。それぞれがその覚悟でとにかくひたむきにやっていたからこそ、年齢関係なく多角的に楽しめる作品になったと思います。そして、もしこの映画をきっかけに原作を知って好きになってもらえたら、それはすごく幸せなことだと思います。

濱尾ノリタカ
1999年生まれ、東京都出身。2021年『仮面ライダーリバイス』(EX)に出演。その後、ドラマ『マイ・セカンド・アオハル』(TBS)、『笑うマトリョーシカ』(TBS)などの話題作に出演。2025年NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』、連続テレビ小説『あんぱん』に出演し注目を集める。現在、7月期月9ドラマ『明日はもっと、いい日になる』(CX)に出演中。12月公開の映画『WIND BREAKER/ウインドブレイカー』にも出演が決まっている。
Photography NA JINKYUNG @TRON
Hair & Makeup TSUKUSHI TOMITA @TRON
Styling HARUKI UCHIYAMA @TRON
Edit & Interview YUKA ENOMOTO
こちらの情報は『CYAN MAN 2025年10月号』に掲載された内容を再編集したものです。